近所に住んでいる雉
家の近所には、不可思議なことに雉が住んでいる。
最初に見たのは農家の畑であった。
季節はいつごろだったろう。
タチアオイの咲き誇っていた頃か、小麦の刈り取りが終わった頃か。
すっかり失念してしまったが、その畑の地面を、雉の夫婦がつつきまわっていた。
私は、雉なんてのは桃太郎の絵本と図鑑でしか見たことがなかったので、それを実際生で見たときには孔雀かと思った。
孔雀は、私が通っていた幼稚園で飼っていたので、なんなら雉なんかよりもよっぽどありふれた鳥であった。
けれどもまあよくよく考えてみると、孔雀だってそんなところにいるはずもない。
ああ、やっぱりあれは雉なんだ、きっとどこぞの飼い雉なんだろう、と無理やりに納得した。
それからしばらくは、雉の姿も見ることもなく、段々あれはまぼろしだったのかと思うようになった。
それから、私は引越しをした。
住んでいたところからさほど遠くない、けれども少し奥にはいったところ。
いやに自然がたくさんある地域に引越したのだ。
あまりに緑が多いので散歩のしがいがあり、時間のある休みの日にはそこらじゅう歩き回った。
そして、私はふたたび雉たちに邂逅することとなったのである。
それも、こんどはほぼ毎日、出先出先で出会うのである。
時には夫婦で、けれどもたいていは鮮やかな体色をしたオスだけでいる。
雉は、空気を切り裂くかのような高い声で鳴く。
最初は締められてしまったのかと思った。
けれども、その不恰好な声の先には、泰然と構えた美しい雉が佇んでいるので、はあ、これが彼の声か、と少し興ざめしたのを覚えている。
それにしても、鳥と言うのはどうしてあんなにオスが美しいのであろう。
女の気をひこうと男が美しくあろうとするとは、女にとってはまこと住みよい社会かもしれない。