祖母たちと過ごした時間
幼い頃、私は母方の祖母の家で過ごすことが多かった。
それは、祖母が営んでいた駄菓子屋兼タバコ屋の手伝いを母がしていたことに起因する。
祖母の家には、私にとって2人の「おばあちゃん」がいた。
血の繋がりの有無に関わらず、私にとってはどちらも大切な祖母だった。
私は1人を大きいおばあちゃんと呼び、もう1人を小さいおばあちゃんと呼んでいた。
身長からそう呼んでいたのだが、実際の年齢は小さいおばあちゃんの方が上だった。
店番は大きいおばあちゃんが主にしていたので、私の遊び相手は専ら小さいおばあちゃんだった。
小さいおばあちゃんは皺だらけの顔にいつも穏やかな微笑みを浮かべ、おはじきやお手玉、折り紙に積木など、私が飽くまで遊びに付き合ってくれた。
私の我儘にも嫌な顔ひとつせず、いつもにこにこと優しかった。
一方、大きいおばあちゃんは少し厳しいところがあった。
私にマナーや料理を教えてくれたのは彼女だった。
例えば、玄関で靴を揃えること、コートのかけ方、リンゴの剥き方、卵焼きの作り方、それらを私に教えてくれたのは母ではなく大きいおばあちゃんだった。
大きいおばあちゃんに横についてもらいながら、何度も何度も卵焼きを作ったことを鮮明に覚えている。
私にとって、2人の祖母と過ごした時間は何事にも代えがたい。
今はもう過ごしたくても過ごせない時間であるからだ。
それに、小さいおばあちゃんの優しさに包まれていたことで私は他人に優しくあろうと思えるし、大きいおばあちゃんのしつけによって人として基本的なことを身につけることができた。
幼い頃にどんな人とどんな時間を過ごすか、それが大切なんだと思う。